介護保険法
(かいごほけんほう)
主として高齢要介護者に対して公的保険方式で介護を行うことを定めた法律。1997年(平成9)12月法律123号、2000年4月1日施行。
【成立の背景】
これまで、高齢者に対する介護はおもに制度的には、(1)医療保険を基本とする老人保健法によって行われるとともに、(2)社会福祉サービスの一環として老人福祉法に基づき高齢者の権利要求にこたえる公的責任・義務のとり方として、市区町村による措置として行われてきた。それは、受益者負担ではなく市区町村の一般財源によって、特別養護老人ホームやホームヘルパーなどのサービスを本人の負担能力に応じて無料ないし低額でも受けられるというやり方がとられてきた。
これら社会福祉サービスのための施設や要員充足が、現状ではきわめて不十分なところから家族の介護負担が深刻で、社会福祉サービスの緊急な充足こそが公的責任でなされるべきであった。ところが国はそれに逆行する形で、国庫負担を含む医療費抑制政策を進め、さらに公的責任による公費負担方式としての措置制度の廃棄をも図ろうとしてきた。そのようななかで進められたのが、今回の介護保険法である。本法は、介護分野への営利企業の参入促進をも意図して、新たな保険制度を公的に創設することとして、1997年12月の通常国会で共産党を除く賛成多数で成立した。
【保険料と給付】
本法の概要は以下のとおりである。介護保険は原則として市町村と特別区がそれぞれ運営する。被保険者は2種類で、住民中65歳以上の者は第1号被保険者、40歳以上65歳未満の者は第2号被保険者とされる。介護保険の財源は、その2分の1を保険料、残り2分の1を公費(国と地方自治体で折半)でまかなう。
保険料は、1号被保険者の場合の料率は保険給付予想額や、被保険者の所得階層などを考慮して政令で定める基準に従って条例で定めるが、政府案では5階層に分けた1号被保険者中で標準とされる住民税非課税本人(第3階層)で、制度発足当初月額平均2915円といい、その上、政令所定額(政府案では月額1万5000円)以上の年金受給者の場合は、年金から天引き徴収される。
2号被保険者の介護保険料はその者の加入する医療保険(健保)の保険料に上乗せして被用者は使用者と、国民健康保険(国保)被保険者は国庫と、それぞれ折半負担で徴収される(全国一律のルール)。
1号被保険者中で無年金者や前記政令所定額(年金月額1万5000円以上)に満たない低年金者は市区町村が直接徴収する。減免は特別の理由ある場合に限られ、滞納者には厳しい不利益措置が規定されている。
【要介護認定と介護保険施設】
被保険者が本法に定める要介護状態またはそのおそれのある状態になったときは本法による要介護者または要支援者として介護給付または予防給付を受けることができる。ただし2号被保険者の場合は、要介護または要支援状態に加えて、その心身の障害が加齢に起因する疾病で政令所定のものによる場合に限定される。本法で要介護状態とは、身体上や精神上の障害のため入浴、排泄{はいせつ}、食事などを営むうえでの基本的動作について厚生省令所定の期間にわたって継続して常時要介護と見込まれるもので、その介護必要度に応じて厚生省令所定の要介護状態のどれかに該当するものをいうとされている。
被保険者が以上の意味での要介護状態になったと考えても医療保険と違って被保険者証一枚でただちに介護給付を受けられるわけではなく、手続的には、市区町村に要介護認定を申請(指定居宅介護支援事業者代行も可)し、市区町村職員による調査(市区町村は前記業者に調査委託できる)を経たうえで市区町村に置かれる要介護認定審査会による審査を受け、市区町村による認定を受けることが必要とされている。この認定を受けた要介護者に対して、その要介護度区分に応じて厚生省令で定める額の範囲内で介護支援専門員(ケア・マネージャー)などが立てる計画に従って介護給付が行われる。
本法による介護給付には居宅介護サービス費の支給など居宅介護にかかるものが6種類、施設介護サービス費の支給など介護保険施設での介護にかかるものが3種類規定されているが、ドイツの介護保険と違って介護手当は規定されていない。本法による介護保険施設としては、指定介護老人福祉施設(本法施行時点で特別養護老人ホームになっているものはこの指定を受けたものとみなされる)、介護老人保健施設および指定介護療養型医療施設をいう。介護給付を受けた場合、その費用の1割はその給付を受けた被保険者の負担とされる(保険料とは別に1割は自己負担)。施設介護を受けた場合は、このほか食費および日常生活諸費も自己負担となる。
要介護認定、介護給付に関する処分、保険料に関する処分などに不服がある場合は、都道府県に置かれる介護保険審査会に審査請求を行うことができる。
【問題点】
介護保険法は、同法による要介護認定申請受付が1999年(平成11)10月1日から開始されたことで実質的に発足したが、とりわけ保険料や利用料負担などに対する国民の不満の高まりから選挙への影響をおそれてとみられる与党3党(自由民主党、自由党、公明党)による申入れを受けて、政府は同年11月、1号被保険者については本法施行後半年間は保険料を徴収せず、その財源は国が負担すると決定。さらにその後1年間保険料半額とすること、2号被保険者関係でも本法施行後の1年間、医療保険者について国が財政支援すること、低所得者の利用料負担を当面3年間3%に軽減、その後段階的に引上げること(2005年度から10%)、家族介護についても支援策を講ずることなどを決めた。問題先送りの3党合意ではあるが、部分的に低所得者に対する配慮を示した決定である。しかし介護保険法に内在している、根本的な問題点が解消されたわけではない。以下、7点を列記しておく。
(1)要保障国民の権利義務にかかわる重要事項の多くが法ではなくて政省令のごとき行政当局の定めるところに委ねられていること(保険料は政令で定める基準に従って条例で定める、介護給付が厚生省令に規制されるなど)。
(2)要介護者本人や家族のプライバシーにかかわる調査、介護計画策定、訪問介護、訪問看護などを法人でさえあれば営利法人でも都道府県知事の指定を受けた事業者が行いうるとされていること(民間業者の参入は、競争が激しくなり値下がりが期待できる、利用者の選択の幅が広がるなどの利点もあるが、悪質業者が紛れ込む危険もある。その対策が不十分)。
(3)保険料、利用料などの負担が低所得者にとって過酷なこと(上限に差を設けてはいるが利用料の1割負担や、月額1万5000円未満の低年金者からも市町村が保険料を徴収するなど)。1999年11月に決定した特別策は低所得者に配慮してはいるが、期限付きで抜本的な策とはいえない。しかも軽減による国費は1兆円余りとみられているが、その財源は不透明でいずれは保険料のアップや増税の形ではね返ってくる。
(4)市町村によって保険料に大きな格差があること(厚生省の調べでは4.4倍)。
(5)要介護認定が厳しいこと。
(6)要介護認定がおりなくて、自立と認定されて介護サービスが受けられなくなったお年寄りへの対応が不十分。
(7)介護サービスに必要な施設・要員が不十分(市町村の4分の1から5分の1がケア・マネージャー、ホームヘルパーが不足している)。
高齢化社会はもはや「将来」の課題ではなく、「今日」の問題である。現在的かつ抜本的な対応が望まれる。ケア・マネージャー 社会福祉 ホームヘルパー 老人保健法 <小川政亮>
【本】佐藤進、河野正輝編『介護保険法』(1997・法律文化社) ▽伊藤周平著『出直せ!介護保険』(1999・自治体研究社) ▽中央社会保障推進協議会編『介護保険をどう改善させるか』(1999・あけび書房)
