五大力恋緘
(ごだいりきこいのふうじめ)
歌舞伎{かぶき}脚本。世話物。三幕。並木五瓶{ごへい}作。1794年(寛政6)5月京都・西の芝居初演。1737年(元文2)大坂・曽根崎{そねざき}で薩摩{さつま}侍早田八右衛門{はちえもん}が痴情により湯女{ゆな}菊野ら5人を殺した事件を脚色。初演台本では主人公の名が勝間{かつま}源五兵衛と菊野であったが、翌年江戸で上演したとき、「薩摩歌」の世界を取り入れてヒロインを小万とし、場面も曽根崎から深川に改め、以後江戸ではこれが例になった。紛失した主家の宝刀を詮議{せんぎ}する源五兵衛は、深川の芸者小万が嫌な客笹野{ささの}三五兵衛を避ける方便に、頼まれて恋人のふりをしたことから浪人になるが、小万とは真実恋仲になり所帯をもつ。しかし、小万は宝刀を盗賊三五兵衛から奪い返そうと、彼になびくとみせて源五兵衛に愛想づかし。怒った源五兵衛は女を殺すが、やがて女の真意は知れ、宝刀も手に入る。五大力とは、当時の女が恋文の封じ目に書いて無事先方に着くよう願ったまじないであるが、この作では小万が変らぬ心の誓いに三味線へ五大力と書き、それが三五兵衛によって三五大切{さんごたいせつ}と書き直される趣向。世話狂言の類型である「縁切り」から「殺し」に至る作劇であるが、登場人物の心理の近代的な描写が優れる。書き換え作では五瓶自身の『略三五大切{かきなおしてさんごたいせつ}』、4世鶴屋南北{つるやなんぼく}の『盟{かみかけて}三五大切』が有名。 <松井俊諭>
【本】松崎仁校注『五大力恋緘』(講談社学術文庫)
